MISSION 4-8 サイバーレジリエンスとは

現代のサイバー攻撃は、もはや「防げる」レベルを超え、企業の存続を脅かす主要なリスクとなっています。特にリソースが限られる中小企業にとって、一度のランサムウェア感染やシステム停止は致命的になりかねません。

中小企業の経営者・担当者向けに、従来の「防御」を超えた新しい考え方である「サイバーレジリエンス」の概念、その重要性、そしてそれを確立するために経営層が果たすべき役割を含めた具体的な行動計画を理解しましょう。

POINT 1 サイバーレジリエンスとは何か

サイバーレジリエンスとは、企業がサイバー攻撃やシステム障害といった多様な事態に直面した際に、被害を最小限に食い止め、迅速に回復し、事業を継続する能力のことです。

区分 従来のセキュリティ サイバーレジリエンス
基本的な考え方 侵入を完全に防ぐ 侵入されることを前提とし、被害を最小化する
戦略的重点 予防 検知、対応、復旧、適応

この考え方は、企業が有害なサイバー事象が発生したとしても、中核的なビジネス活動を継続的に提供できる能力を確保するための戦略です。

POINT 2 サイバーレジリエンスの重要性

サイバーレジリエンスは、単なるIT部門の技術対策ではなく、企業の存続能力に直結する経営リスクマネジメントの中核です。

■ 攻撃を受ける前提での防御(弾力性)

攻撃を完全に防ぐことは困難なため、「侵入を許容しつつ、いかに迅速に立ち直れるか」に戦略の重点を置く必要があります。これが企業の「弾力性」です。攻撃を防ぐための壁を高くするだけではなく、壁が破られた後のための防火シャッターとして、ネットワーク隔離や検知システムといった対策を準備しておくことが重要です。

■ 復旧の要としてのバックアップ

ランサムウェア攻撃を受けた場合、システムとデータが暗号化され、使用不能になります。この際、身代金を払わずに事業を再開するためにも、バックアップが重要な手段です。なお、バックアップデータも攻撃者に暗号化されないよう、ネットワークから切り離してオフラインで保管しましょう。

POINT 3 経営者の参画の重要性

サイバーレジリエンスは、IT部門任せでは機能しません。経営層の責任として、役割を果たす必要があります。

■ 戦略的な意思決定

「事業が停止してからいつまでに復旧させるか(目標復旧時間:RTO)」、「どの程度のデータ損失なら許容できるか(RPO)」といった目標設定は、ビジネス上の判断であり、経営層が責任をもって決定する必要があります。

■ 全社的な体制構築

セキュリティへの投資予算、従業員教育の義務化、インシデント発生時の社内外への報告・対応体制の構築は、経営層からのトップダウンの指示が不可欠です。サイバーセキュリティを組織のミッションやリスク管理戦略に統合することが求められます。

POINT 4 レジリエンス確立のために企業が実施すべきこと

サイバーレジリエンス能力を育成・強化するためには、次の6つの機能からなる体系的なアプローチを採用することが重要です。

出典:NIST「The NIST Cybersecurity Framework (CSF) 2.0」より作成

統治(Govern)

経営戦略との整合性の確保。経営層が関与し、責任者と予算を明確にする。

特定(Identify)

守るべき資産の把握。事業に不可欠なシステムとデータ(顧客情報など)を特定し、リスク評価を行う。

防御(Protect)

予防的対策の実装。OSやソフトウェアのパッチ適用を徹底し、VPN接続や重要なシステムへのアクセスには多要素認証(MFA)を導入する。

検知(Detect)

異常の早期発見。アクセスログを確実に取得・監視し、不審な挙動を素早く検知する体制を構築する。

対応(Respond)

被害の封じ込めと分析。インシデント発生時の初動対応計画(誰が、何を、誰に報告するか)を策定し、定期的に訓練を実施する。

復旧(Recover)

事業の迅速な回復。策定したRTO/RPOに基づき、バックアップを定期的に実行し、必ずネットワークから隔離して保管する。

POINT 5 組織としてのサイバーレジリエンス

サイバーレジリエンスは、中小企業が現代のサイバー脅威から事業を守り抜くための「保険であり、同時に競争力を維持するための「投資」です。重要なのは、「防御の限界」を認識し、経営層がリスクと復旧目標を決定し、バックアップと訓練を通じて「迅速に立ち直る能力」を組織全体で身につけることです。この継続的な改善サイクルこそが、攻撃に打ち勝つ、しなやかな企業体質の構築につながります。