セミナーテキスト

3-1. 国の基本方針および実施計画の要約

国の方針の1つである「経済財政運営と改革の基本方針」は、政府の経済財政政策に関する基本的な方針を示すとともに、経済、財政、行政、社会などの分野における改革の重要性とその方向性を示すものです。この方針は通称「骨太の方針」と言われています。「骨太の方針2025」は、単なる経済見通しではなく、総理大臣が議長を務める経済財政諮問会議が司令塔となり、翌年度の予算編成の方向性を決定づける最上位の政策文書となっており、ITおよびセキュリティ関連の施策についてもこの基本方針に沿った形で実施計画が策定されています。

ここでは、令和7年に策定された基本方針について説明します。

3-1-1. 「骨太の方針2025」の要旨

「骨太の方針」の核心は「賃上げこそ成長戦略の要」と位置づけ、物価上昇を上回る持続的な賃上げを起点とした成長型経済への転換を目指すという点です 。この国家戦略の成否は、日本企業の99%以上を占め、雇用の7割を支える中小企業の生産性向上と賃上げ能力に懸かっています。

 

このため、政府は「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」を策定し、①価格転嫁・取引適正化、②生産性向上、③事業承継・M&Aを三本柱とする包括的な支援策を打ち出しました。特に生産性向上の切り札としてDXが位置づけられており、5年間で官民合わせて約60兆円規模の省力化投資を目指す野心的な目標が掲げられています。これは、単なるITツール導入補助から、伴走型支援や人材マッチングといった「実行能力の構築」へと支援の重心を移す、より成熟した政策への進化を示唆しています。

 

骨太の方針の重要性
・政策決定の司令塔:内閣総理大臣主導の経済財政諮問会議が策定される

・予算編成のガイドライン:毎年6月に閣議決定され、各省庁の予算要求の基準となる

3-1-2. 「骨太の方針2025」に基づく中小企業DX・セキュリティ関連事項

骨太方針では大きく5つの柱に分類されます。ここでは提示されている方針・施策から特に中小企業のDXおよびセキュリティ対策に関連すると読み取れる事項を取り上げ記載します。

また、ここでは記載されてない柱についても、地方でのサービス維持・強化(柱2. 地方創生)や、デジタル行財政改革を通じた社会の持続可能性確保(柱5. 持続可能な経済社会)に貢献するものとして、DX推進はその基盤を支えるものとしています。

 

 

 

柱1. 物価上昇を上回る賃上げの普及・定着
賃上げの原資確保と創出のため、中小企業の生産性向上(DX)を最重要課題と位置づけ

【主要施策】

・賃金向上推進5か年計画の実行:

賃上げ可能な経営環境を整備するため、包括的な政策パッケージを策定

・生産性向上の強化(DX):

人手不足が深刻な12業種などを対象とした「省力化投資促進プラン」に基づき、2029年度までの5年間で官民合わせて約60兆円規模の生産性向上投資を実現

・体系的なDX支援への進化:

従来のITツール導入補助金といった単発の支援から、より体系的で継続的な支援へと重心を移行

・伴走型支援の構築:

専門家が計画策定からツールの導入、定着まで一貫してサポートする全国的な「伴走型支援」体制を構築

・価格転嫁・取引適正化の徹底:

生産性向上による収益を賃上げの原資とするため、「労務費の適切な転嫁のための価格交渉に関する指針」の周知徹底など、労務費上昇分の適切な価格転嫁を促進

 

柱3. 「投資立国」及び「資産運用立国」
将来の成長のための投資促進に関わり、DXをテコにした企業の持続可能性確保を支援

【主要施策】

・事業承継・M&Aによる経営基盤強化:

「事業承継・M&Aに関する新たな施策パッケージ」を通じて、後継者不足の解消と、M&Aによる経営基盤の強化と持続性の確保を支援

 

柱4. 国民の安心・安全の確保
DXの加速に伴うリスク増大に対応し、サイバーセキュリティ対策を経済活動の基盤として

強化

【主要施策】

・サイバーセキュリティ対策の経営課題化:

サイバーセキュリティを単なる技術問題ではなく、事業継続と経済安全保障の根幹をなす経営課題として捉え、政府が強く推進

・サプライチェーン全体のセキュリティ強化:

国民の安全・安心確保の一環として、中小企業を含むサプライチェーン全体のサイバーセキュリティ対策強化を明確化

・新たなサイバーセキュリティ戦略の策定:

DX推進に伴うリスクへの予防的かつ包括的な対応として、2025年内に新たな「サイバーセキュリティ戦略」を策定

3-1-3. まとめ

「骨太の方針2025」では、DXによる「アクセル」に見合った、サイバーセキュリティによる「ブレーキ(制御)」を備えることで、安全かつ持続可能なデジタル社会への移行を目指すという、明確な戦略的意図を示しています。中小企業にとって、DXの推進はサイバーセキュリティ対策の徹底とセットで取り組むべき経営課題となります。

(出典)内閣府「経済財政運営と改革の基本方針 2025」をもとに作成

詳細理解のため参考となる文献(参考文献)
【解説】「経済財政運営と改革の基本方針2025」で示された中小企業のDXとサイバーセキュリティ対策の推進策 https://www.cybersecurity.metro.tokyo.lg.jp/security/KnowLedge/629/index.html